環境移住|価値観・文化・世界観を基準にした新しい移住モデルの考察【WEB/簡易版】
【環境移住 論文インデックス】
本ページでは、「環境移住(Environment-Oriented Migration)」に関する論文・研究ノート・考察を体系的にまとめています。環境を基盤とした新しい移住モデルを学術的に整理し、下記のテーマごとに順次公開していきます。
■ 1. 概念と定義
1-1. 環境移住とは何か(概念定義)
1-2. 移住研究における位置づけ
1-3. 既存の移住(教育・ノマド・ライフスタイル)との関係性と包括性
1-4. 環境要因の範囲(文化・価値観・社会構造)
■ 2. 理論背景
2-1. 環境が価値観に与える影響
2-2. 文化社会学・環境心理学との関連
2-3. 個人と環境の相互作用モデル
2-4. 家族単位の価値観形成と環境選択
■ 3. モデル構造
3-1. Environment-Oriented Migration モデルの全体像
3-2. “価値観” を起点とした環境選択プロセス
3-3. 機能移住(Functional Migration)との構造的違い
3-4. 長期的な価値観形成と環境要因
■ 4. 実践知とケーススタディ
4-1. 南フランス・エクサン=プロヴァンスの事例分析
4-2. 価値観基盤の環境選択プロセス(阪口家のケース)
4-3. 教育利得を目的としない移住の特徴
4-4. 環境に適応する大人・子どもの変化
■ 5. 具体的な方法論
5-1. 環境選びのための評価基準
5-2. 価値観マップの作成
5-3. 長期視点での環境選択フレーム
5-4. 移住前に行うべき調査と準備
■ 6. 他モデルとの比較研究
6-1. 教育移住との比較と包含関係
6-2. ノマド移住(働き方移住)との比較
6-3. ライフスタイル移住との比較と相違点
6-4. 文化移住(Cultural Migration)との接点
■ 7. 環境移住がもたらす価値
7-1. 家族に生まれる学びと変化
7-2. 多文化適応力の形成
7-3. 人生のリズムと幸福感
7-4. 環境そのものを資産化するという視点
■ 8. 社会的意義と未来
8-1. 環境移住が示す「未来の生き方」の方向性
8-2. 多文化共生社会への示唆
8-3. 移住研究における新しい位置づけ
8-4. 今後の研究テーマと展望
本ページでは、「環境移住(Environment-Oriented Migration)」という新しい移住モデルを、できるだけわかりやすく整理しています。
環境移住とは、物価・利便性・制度といった“機能”ではなく、文化・価値観・街のリズム・人の態度など、環境そのものを基準に生きる場所を選ぶという考え方 です。
近年、働き方や家族の価値観が多様化する中で、「どこで生きるか」「どの環境で育つか」を価値観から選ぶ人が増えつつあります。しかし、この動きを包括的に説明する概念やモデルはこれまで存在しませんでした。
このページでは、
・環境移住の定義
・理論背景
・モデル構造
・具体的な方法論
・既存の移住との違い
・ケーススタディ
・社会的意義
を体系的にまとめ、環境移住を“新しい移住の枠組み”として提示します。
移住を考えている人だけでなく、「自分たちの価値観に合う環境とは何か」を考えたいすべての方の参考になれば幸いです。
序文(Abstract)
本稿は、「環境移住(Environment-Oriented Migration)」という新しい移住概念を提唱し、その理論的背景とモデル構造、具体的な方法論、他モデルとの比較、そして社会的意義について体系的に整理したものです。
環境移住とは、気候や治安といった物理的条件だけでなく、文化、価値観、人々の態度、街のリズム、教育環境、社会構造など、その土地が持つ固有の「環境そのもの」を基準に居住地を選ぶ移住を指します。
従来の移住研究は「教育」「経済」「働き方」など目的別の分類が中心でしたが、近年は価値観や生き方そのものから出発して環境を選ぶ例が増えています。しかし、その動きを包括的に説明する枠組みは存在していませんでした。
本研究では、環境が価値観に与える影響を文化社会学・環境心理学と接続し、価値観と環境の相互作用による“循環モデル”として環境移住を位置づけます。また、実践例として南フランスのケースを取り上げ、環境が家族の学びと変化にどのように作用するかを考察します。
さらに、教育移住・ノマド移住・ライフスタイル移住・文化移住など既存の移住モデルと比較し、環境移住がそれらを包括する上位概念としてどのように機能するかを示します。
最後に、環境移住がもつ社会的意義として、価値観多様化時代の生き方の選択肢、多文化共生社会への示唆、移住研究における新しいパラダイムの可能性、今後の研究テーマを提示します。
本稿が、個人・家族・研究者・教育者にとって、新しい環境選択の視座を提供することを目的としています。
1. 概念と定義
1-1. 環境移住とは何か(概念定義)
【環境移住の定義】
環境移住とは、文化・価値観・社会的環境を含む“環境そのもの”を基準に、家族や個人の長期的な価値観形成に最適な居住環境を主体的に選ぶ移住である。
環境移住(Environment-Oriented Migration)とは、家族や個人の価値観・世界観・人格形成に影響を与える「環境そのもの」を基準にして生活の場所を選ぶ移住を指します。
ここでいう環境とは、気候や治安といった物理的条件だけでなく、文化、人々の態度、街のリズム、歴史、価値観など、その土地に根付いた社会的・文化的要素も含む広い概念です。
環境移住は、環境を“生活の基盤であり、学びの場”と捉え、自分たちがどのように生きたいかを起点に、もっとも調和する環境を選び取るという生き方です。
1-2. 移住研究における位置づけ
従来の移住は、「教育のため」「働き方のため」「経済のため」など、特定の目的に基づいて分類されることが一般的でした。しかし、近年は価値観や生き方そのものから出発して環境を選ぶケースが増えています。
環境移住は、これまでの「目的別移住」とは異なり、「価値観を出発点に環境を選ぶ」という、より上位概念として位置づけられます。
つまり、「何を得るか」ではなく、「どの環境が自分たちの価値観を育てるか」を基準にした、移住の新しいフレームといえます。
1-3. 既存の移住(教育・ノマド・ライフスタイル)との関係性と包括性
環境移住は、既存の移住タイプと対立する概念ではありません。むしろ、教育移住、ノマド移住、ライフスタイル移住、文化移住などを上位から包括的に整理する“傘”のような存在です。
例えば、教育移住も「良い教育環境を求める」という価値観から出発していれば環境移住の一形態といえます。ノマド移住も、自由な働き方を背景に「自分らしい環境」を選ぶ場合、環境移住と接続します。
環境移住は、これまで点として語られていた移住理由を「環境」という視点で統合し、より本質的に捉え直す枠組みです。
1-4. 環境要因の範囲(文化・価値観・社会構造)
環境移住が対象とする「環境要因」は、物理的な住環境を超えた領域に広がっています。
街の空気感、コミュニティのあり方、人々の振る舞い、言語の持つ価値観、食文化、季節との付き合い方、子どもを取り巻く社会構造など、生活の随所に潜む文化的・社会的要素が含まれます。
2. 理論背景
2-1. 環境が価値観に与える影響
人は日々触れる環境によって、行動様式や思考、価値観を大きく左右されます。言語の使い方や人々の態度、街の空気感、季節との向き合い方など、日常に溶け込んだ環境要素は、長期的に人格形成に影響を与える「背景の力」を持っています。
環境移住は、この“環境の影響力”を前提とし、自分たちがどのように育ち、どのように変化したいのかを基準に環境を選ぶという考え方に立脚しています。
2-2. 文化社会学・環境心理学との関連
文化社会学では、人の価値観は文化的文脈の中で形成されるとされ、環境心理学では、物理環境や社会環境が行動や感情に影響することが知られています。
環境移住はこれらの知見と接続し、居住環境を「人生観を形づくる文化的フレーム」として捉え直します。街の文化的要素や社会構造が、家族の価値観や生活の選択にどのように影響するのかを探る視点が重要になります。
2-3. 個人と環境の相互作用モデル
環境移住は、人が環境に影響されるだけでなく、環境との関わり方によって人自身も変化し、その変化が新たな環境選択につながるという「相互作用」の視点を持っています。
例えば、文化の異なる土地に住むことで価値観が広がり、さらにその価値観が新しい行動選択を生むというサイクルです。この相互作用を重視することで、環境移住は「住む場所が人生を形づくるプロセス」を明確に説明できます。
2-4. 家族単位の価値観形成と環境選択
環境移住は個人の選択にとどまらず、家族全体の価値観形成にも深く関わります。
家族がどのような世界観を共有し、どんな環境で時間を過ごすのかは、子どもだけでなく大人にとっても重要な影響要因です。
家族単位で環境を選ぶという行為は、「どんな生き方をしたいのか」を軸に未来を設計する行為でもあります。環境移住は、家族の価値観やビジョンを土台にした環境選択のプロセスとして理解できます。
これらは、日常の積み重ねを通して人格や価値観に影響を与えるため、環境移住では 「環境そのものが教育である」 という視点を重視します。
どの環境が自分たちの価値観を育て、人生の方向性を豊かにするか。それを軸に居住地を選ぶことが環境移住の特徴です。
3. モデル構造
3-1. Environment-Oriented Migration モデルの全体像
環境移住(Environment-Oriented Migration)は、「価値観を起点に環境を選び、その環境が再び価値観を育てる」という循環モデルで説明できます。
従来のように“目的から移住先を選ぶ”直線的なモデルではなく、価値観と環境の相互作用が続いていく“循環型”の構造を持っています。
まず、自分たちの価値観を明確にし、それと調和する環境を選ぶ。
次に、その環境が日々の生活を通して新しい価値観を生み出し、その変化がまた次の環境選択に反映される。
環境移住は、固定的な「移住」ではなく、価値観の成長に合わせて環境も更新されていく動的なモデルです。
3-2. “価値観” を起点とした環境選択プロセス
環境移住では、「何が得られるか」ではなく「どんな価値観を育てたいか」を出発点にします。
たとえば「自然との距離感」「多文化環境」「文化や芸術が生活にある暮らし」など、自分たちの価値観を明確にした上で、気候、街並み、人々の態度、教育環境、働き方との相性などを評価します。
住みやすさや機能性よりも、価値観と調和する環境を選ぶという点が、このプロセスの特徴です。
3-3. 機能移住(Functional Migration)との構造的違い
機能移住は、物価、安全性、教育など“機能面”を基準とする移住です。
環境移住はその機能面を排除するのではなく、むしろ上位に位置づく考え方です。
「要件を満たす国」ではなく、「価値観を育てる環境」を基準にするため、同じ国が移住先でも理由が大きく変わります。
短期的な便利さではなく、価値観との整合性を重視する点に違いがあります。
3-4. 長期的な価値観形成と環境要因
環境移住は、長期的に価値観が育つ場所を選びます。
街のリズム、季節の移ろい、コミュニティ文化、学校文化、人々の態度など、日常に埋め込まれた環境要因は、ゆっくりと、しかし確実に価値観に影響します。
環境移住では「その土地で数年暮らしたあと、どんな自分になっているか」という時間軸で環境を捉えます。価値観の成熟に伴って環境も変化するため、環境移住は“人生全体の設計”につながるモデルといえます。
4. 実践知とケーススタディ
理論として紹介してきた「価値観と環境の相互作用」は、言葉だけだと少し抽象的に感じるかもしれません。けれど、この仕組みは実際の生活の中にこそ、いちばん分かりやすく現れます。
そこでこの章では、南フランス・エクサン=プロヴァンスでの暮らしを題材に、環境の違いがどのように家族の価値観や日々の行動に影響していくのかを、具体的に見ていきます。
“環境が人生観をつくる”という考え方が、実際の生活ではどのように立ち上がるのか。
理論で話してきた内容が、どんな場面で、どんな形で「体験」として現れるのかを追いかけていきます。
4-1. 南フランス・エクサン=プロヴァンスの事例分析
南フランス・エクサン=プロヴァンスは、歴史的な街並み、文化へのアクセス、穏やかな人々の気質、地産地消の習慣など、多様な環境要素が生活に溶け込んでいる地域です。 この街での暮らしは、単に「海外で生活する」という機能的な経験ではなく、日常の小さな習慣や価値観そのものがゆっくりと変化していく実感をもたらします。
街のリズムがゆったりしていること、人々が挨拶を大切にする文化、季節を楽しむ暮らし方など、多くの要素が生活そのものを形づくり、家族全体の価値観に影響していきます。
こうした環境特性は“環境移住”の具体例として理解しやすく、環境が価値観に作用するプロセスを可視化する事例と言えます。
4-2. 価値観基盤の環境選択プロセス(阪口家のケース)
価値観を基点にした環境選択は、生活の快適さではなく「どんな世界観の中で過ごしたいか」を重視します。 たとえば、「文化のある街で暮らしたい」「家族で違う価値観に触れながら過ごしたい」といった願いが出発点です。
阪口家のケースでは、親がフランス語を話せない状態であっても、環境そのものに価値を見出し、現地公立校への入学を選択しています。
この選択は、子どもの教育という限定された目的ではなく、「家族全体が環境から学び、変化すること」を軸にしたプロセスに基づくもので、環境移住の特徴をよく表しています。
4-3. 教育利得を目的としない移住の特徴
教育移住は「より良い教育制度」を求めて国を選ぶことが多いですが、環境移住では教育そのものよりも「どんな環境で育つか」を重視します。 そのため、学校の偏差値や制度より、日常の文化や街の空気感、人々の価値観が重視される点に違いがあります。
たとえば、公立校で言語や文化の壁を経験することも、子どもにとっては重要な学習機会です。親にとっても未知の環境を受け入れるプロセスが新しい価値観を育て、家族全体の成長につながります。
4-4. 環境に適応する大人・子どもの変化
新しい環境に適応するプロセスは、大人と子どもで異なります。 子どもは言語習得が早く、文化への適応も柔軟ですが、大人は価値観や文化の違いに葛藤する場面もあります。しかしその葛藤こそが、価値観の再形成につながる重要なステップです。
一方で、大人が環境を受け入れる姿勢を見せることは、子どもの成長においても大切な影響を与えます。環境移住における「学び」は子どものみならず、家族全体が変化していくプロセスであり、環境がもたらす作用の大きさを示すものです。
5. 具体的な方法論
5-1. 環境選びのための評価基準
環境移住では、「住みやすさ」よりも「価値観との調和」を基準として環境を評価します。 そのため、物価や治安といった一般的な移住基準に加えて、文化的・社会的な側面を含む多角的な評価が必要になります。
たとえば、街のリズム、人々の態度、文化へのアクセス、季節の過ごし方、コミュニティの雰囲気などは、長期的に価値観へ作用する重要な要素です。
これらをチェックリスト化し、「自分たちの価値観がどれだけ自然に発揮できるか」という観点から環境を比較します。
評価のポイントは、便利さよりも「その土地で暮らす自分たちを想像できるかどうか」です。
5-2. 価値観マップの作成
価値観マップとは、「自分たちは何を大切にして生きているか」を整理するための道具です。 家族全員がそれぞれの価値観を書き出し、共通するものや大切にしたいものを可視化します。
たとえば、
・自然との距離感
・人との関わり方
・文化や芸術へのアクセス
・自己成長の機会
・ゆとりのある時間
といった要素が挙げられるかもしれません。
価値観マップを作ることで、「どんな環境なら実現できるか」という判断が明確になり、移住先選びの精度が大きく高まります。
5-3. 長期視点での環境選択フレーム
環境移住では、短期的な便利さではなく、5年・10年という長期スパンで自分たちがどう成長するかを基準に環境を選びます。
このため、以下の3つの視点で環境を捉えます。
- 今の自分たちが暮らしやすい環境
- 価値観を育ててくれる環境
- 未来の自分たちが生きたい世界を先取りする環境
この3点を重ね合わせることで、「どこに住むべきか」がより明確になります。
環境移住は「未来から逆算して環境を選ぶ」生き方であり、このフレームがその核となります。
5-4. 移住前に行うべき調査と準備
価値観を起点にした移住であっても、事前の準備は欠かせません。 ただし、情報を集めすぎて慎重になりすぎるのではなく、「必要十分な情報」をおさえ、行動につなげることが大切です。
主な準備としては、
・現地の短期滞在で生活のリズムを確認する
・学校や行政サービスの情報を把握する
・街のコミュニティや人の雰囲気を観察する
・気候・治安・交通などの基本インフラを確認する
などが挙げられます。
環境移住では、完璧な準備よりも「価値観と合うかどうか」を見極めることが重要であり、その気づきは実際に環境に触れる中で得られることが多いです。
6. 他モデルとの比較研究
6-1. 教育移住との比較と包含関係
教育移住は、「より良い教育制度や学校環境を求めて移住する」という明確な目的を持ちます。 一方で環境移住は、教育環境を“要素のひとつ”として捉えつつも、より広い価値観と環境の調和を基準にします。
そのため、教育移住は環境移住の中に包含される形を取ります。
「どんな環境で子どもを育てたいか」「どの文化の中で価値観を形成してほしいか」という視点があれば、教育移住も環境移住の一形態となります。
教育制度の良さだけでなく、その国の文化、生活のリズム、人々の態度など、教育の背景にある“環境要因”を重視する点が大きな違いです。
6-2. ノマド移住(働き方移住)との比較
ノマド移住は、場所に縛られず働けることを前提とし、物価・ネット環境・ビザ条件などの“機能性”が重視されます。
環境移住では、これらの機能要素を否定することなく、「その環境がどんな価値観を育てるか」という視点を上位に置きます。
同じ国や都市が選ばれたとしても、
・ノマド移住=働きやすさ
・環境移住=価値観が育つ環境
というように、選択の軸そのものが異なります。
働き方の自由から派生して「自分に合う環境」を求め始めたとき、ノマド移住はそのまま環境移住と重なり合います。
6-3. ライフスタイル移住との比較と相違点
ライフスタイル移住は、「自然豊かな場所で暮らしたい」「都市ではない生活をしたい」など、生活の好みやスタイルを重視する移住です。
環境移住も生活の質や文化を大切にしますが、より本質的に“価値観の形成”を軸に環境を選ぶ点が異なります。
たとえば、
・暮らしの快適さ
・自然環境の良さ
などはライフスタイル移住の中心ですが、環境移住では、
・その環境がどんな価値観を育てるか
・家族がどんな変化を受け取れるか
という時間軸の視点が入ります。
生活の好みではなく、人生観の形成を重視する点が特徴的です。
6-4. 文化移住(Cultural Migration)との接点
文化移住は、特定の文化や価値観を求めて移住するモデルで、芸術・言語・思想への関心が強い人が選ぶ傾向があります。
環境移住は文化移住と深い接点を持ちつつ、より広い領域を扱います。文化だけでなく、街のリズム、人々の態度、コミュニティの構造など、“文化を生む環境全体”を対象にしているためです。
文化移住が「文化を求める移住」だとすれば、環境移住は「文化を育てる環境そのものを選ぶ移住」と言えます。環境移住は、文化移住を含みつつ、さらに生態・社会・価値観の全体構造を捉えるフレームとして機能します。
7. 環境移住がもたらす価値
7-1. 家族に生まれる学びと変化
環境移住のもっとも大きな価値は、「環境そのものが家族の学びとなる」点にあります。 異なる文化や価値観の中で生活することで、家族それぞれが自分とは異なる視点を持ち、行動や思考に変化が生まれます。
子どもはもちろん、大人にとっても、
・言語の違い
・コミュニケーションの取り方
・地域文化との向き合い方
といった日常の体験が、新しい価値観を生む“きっかけ”となります。
環境移住は、「教育」や「働き方」といった単一の目的ではなく、家族全体の学びの連鎖を生むプロセスとして機能します。
7-2. 多文化適応力の形成
異なる文化環境に身を置くことで、自然と多文化への理解や適応力が育まれます。 これは、単に外国語を学ぶといった教育的価値を超えて、「ものの見方が広がる」という深い変化をもたらします。
たとえば、
・異なる価値観に寛容になる
・初対面の人との距離感が柔らかくなる
・環境の違いに柔軟に対応できる
など、多文化に触れることが人格形成に作用します。これはグローバル化した社会で重要視される能力であり、環境移住がもたらす大きな利得のひとつです。
7-3. 人生のリズムと幸福感
環境が変わると、日々のリズムも変わります。 街の速度、人々の態度、季節との付き合い方などは、生活のテンポや心の状態に影響し、結果として幸福感にもつながります。
たとえば、
・ゆっくりとした暮らしのリズム
・挨拶や会話を大切にする文化
・自然や季節を感じる生活習慣
は、心の余裕を生み、豊かな時間感覚を育ててくれます。環境移住は、こうした“生活の質そのもの”を変化させる機会になります。
7-4. 環境そのものを資産化するという視点
環境移住の重要な価値は、「環境そのものを資産と捉える」という視点です。
従来の移住は、教育制度・物価・利便性など“外部の条件”が資産とされていました。
一方で環境移住では、
・文化に触れた経験
・価値観が育つ環境
・多文化適応力
・家族の学びと変化
など、目に見えない“内的資産”を蓄積していくモデルです。
この内的資産は、人生の選択や未来の環境選びにも影響し、長期的な価値を持ち続けます。環境移住は、「環境を整えることが、人生の基盤を整えることにつながる」という、新しい資産形成の考え方につながります。
8. 社会的意義と未来
8-1. 環境移住が示す「未来の生き方」の方向性
環境移住は、「どこで暮らすか」を機能面で判断する従来の移住スタイルとは異なり、価値観や世界観を軸に環境を選ぶという生き方を示しています。これは、働き方の多様化やリモートワークの普及が進む現代において、今後ますます重要になる観点です。
地理的な制約が減った今、人々は「住む場所を選ぶ自由」を以前より大きく手にしています。
その自由を、物価や利便性だけでなく、「どの環境が自分の価値観を育てるか」という根源的な問いを通じて活用するのが環境移住です。
環境移住の普及は、
・人生の選択基準の多様化
・価値観起点で環境を選ぶ文化
・個人と家族のウェルビーイング重視
といった未来の方向性とも合致しています。
8-2. 多文化共生社会への示唆
環境移住は、異なる文化環境に身を置き、そこで生活することで価値観が相互に影響し合うプロセスを含んでいます。このため、単なる「海外移住」ではなく、多文化共生社会の構築に向けたひとつのモデルとして理解できます。
多文化環境に住むことで、
・異なる価値観に対する理解
・文化的背景への共感
・柔軟なコミュニケーション能力
などが自然と育まれます。
これは、移民の受け入れや国際的な交流が日常化する社会において、非常に価値のあるプロセスです。環境移住は、文化間の橋渡しとなる「生活を通じた共生モデル」として、将来的にも広がる可能性を持っています。
8-3. 移住研究における新しい位置づけ
従来の移住研究では、
・経済移住
・教育移住
・ノマド移住
・生活利便性を求める移住
など機能的側面が主に扱われてきました。環境移住は、それらを否定するものではなく、むしろ 上位の視点から包括的に整理する新しい枠組み です。
移住理由が多様化する現代において、「なぜその環境を選んだのか」「その環境がどのように価値観に影響するのか」という問いを扱うことは、研究としても必要性が高まっています。
環境移住という概念の導入により、
・価値観と環境の相互作用
・家族単位の価値観形成
・文化・社会環境の影響分析
といった領域を統合的に論じることが可能になります。
8-4. 今後の研究テーマと展望
環境移住は新しい概念であるため、今後の研究の余白が大きく残されています。今後の主要な研究テーマとしては、以下が考えられます。
・環境移住を行った家族の長期追跡研究
・子どもと大人の価値観変容プロセス
・都市ごとの環境特性と生活満足度の関係
・文化的背景が異なる家庭の環境選択モデル
・環境移住とウェルビーイングの関連性
また、世界各都市や地域の環境特性を比較し、「どんな価値観を育てる街なのか」を分析する研究も可能です。
環境移住は、まだ始まったばかりの概念ですが、移住研究や社会学、環境心理学の領域に新しい視座を提供すると期待されています。今後、理論化と事例収集が進むことで、より確かな位置づけを持つ概念として発展していくでしょう。
まとめ(Conclusion)
環境移住(Environment-Oriented Migration)は、単なる移動や生活拠点の変更ではなく、価値観を軸に人生の環境を選ぶという新しい視点を提示します。
従来の移住が「教育」「経済」「利便性」「働き方」など、特定の目的を起点として語られてきたのに対し、環境移住はそれらを包括し、「環境そのものが人の価値観を育てる」という前提に立った上で、居住地を選ぶモデルです。
この概念を導入することで、
・なぜ人は特定の土地に惹かれるのか
・環境がどのように価値観や人生観を形成するのか
・家族が同じ環境から何を学び、どう変化していくのか
といった問いをより深く理解できるようになります。
環境移住は、未来に向けて環境を“選択”する生き方であり、価値観の成熟とともに環境も更新されていく動的なプロセスです。
本稿で示した概念・モデル・方法論・ケーススタディ・比較研究・社会的意義を通じて、環境移住が新しい移住研究の枠組みとして有効であるだけでなく、これからの生き方そのものに新しい指針を与える可能性を示しました。
環境を選ぶことは、生き方を選ぶこと。
価値観から未来を設計するという視点が、より豊かな人生と社会の創造につながると考えています。
執筆者:阪口ユウキ